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東京地方裁判所 平成4年(ワ)70091号 判決 1992年10月09日

参加人(原告承継人) 株式会社ヒヨキ

右代表者代表取締役 日下部喜代子

右訴訟代理人弁護士 鈴木武志

加城千波

村越仁一

原告(脱退) 株式会社ロベルテ日能商店

右代表者代表取締役 日下部英樹

被告 瀧川株式会社

右代表者代表取締役 瀧川晃一

右訴訟代理人弁護士 丹羽健介

佐藤米生

高畑満

加藤久勝

八賀和子

主文

原告と被告間の東京地方裁判所平成三年手ワ第八七九号為替手形金請求事件について同裁判所が平成三年一〇月二日言い渡した手形判決を次のとおり変更する。

被告は、参加人に対し、金二九八六万四七七八円及びこれに対する平成三年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、参加人が被告に対し別紙手形目録≪省略≫記載の手形金と利息の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  参加人は、別紙手形目録記載の為替手形一通(本件手形)を所持している(参加人の所持する本件手形によって認められる。)。

2  参加人は、本件手形を振り出し、被告は、本件手形の引受をした。

3  本件手形は、満期に支払場所に呈示された。

二  争点

1  被告の主張

被告は、参加人に対し、右両名間の継続的売買契約(本件売買)を参加人が不当に破棄したこと等による参加人の債務不履行に基づく損害賠償請求権(A債権)を有しているので、右債権をもって本訴手形債権の原因債権(本件売買代金債権)とその対当額で相殺する。

(被告が参加人に対し、平成三年九月四日、右相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。)

2  参加人の反論

A債権は、被告が参加人を相手とする東京地方裁判所平成三年ワ第八四六六号事件で請求している債権であり、被告は右訴訟係属の後に本訴で相殺の抗弁を主張したものである(当事者間に争いがない。)。

このように既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁として提出することは、民事訴訟法二三一条の趣旨に反し、許されない。

第三争点に対する判断

一1  以下の事実は、当事者間に争いがない。

(1) 被告は、参加人に対し、右両名間のエステティック用商品の継続的売買契約(本件売買)を参加人が不当に破棄したこと等による債務不履行に基づく損害賠償請求権(A債権)を有しているとして二億六八四六万四〇〇〇円の支払を求めて、平成三年六月二七日、東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟(平成三年ワ第八四六六号事件)を提起した。

(2) これに対し、被告は、被参加事件の平成三年九月一一日の第一回口頭弁論期日において、平成三年九月四日付けで参加人に対して請求する損害賠償請求権(A債権)をもって本訴手形債権の原因債権(本件売買代金債権)と対当額で相殺の意思表示をしたこと及び原告はそのことを知って本件手形を取得したとの抗弁(相殺したことについての悪意の抗弁)を提出した。

(3) 参加人は、その後本件手形を原告から譲り受け、平成四年三月一一日被参加事件に参加し、原告は被参加事件から脱退した。

2  係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。すなわち、民事訴訟法二三一条が重複起訴を禁止する理由は、審理の重複による無駄を避けるためと複数の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが、相殺の抗弁が提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもって対抗した額について既判力を有するとされていること(同法一九九条二項)、相殺の抗弁の場合にも自働債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれども理論上も実際上もこれを防止することが困難であること、等の点を考えると、同法二三一条の趣旨は、同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず、既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場合にも同様に妥当するものである(最高裁平成三年一二月一七日第三小法廷判決・民集四五巻九号一四三五頁参照)。

3  そうすると、これを本件について見るに、前記の事実によれば、参加人が本件手形を原告から取得して被参加事件に参加したことにより、参加人と被告との関係では、被参加事件における原・被告間の悪意の抗弁の問題は消失し、被告は参加人に対し相殺の抗弁を主張することになるところ、被告の右主張は、係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張するものにほかならないから、右主張は許されないと解するのが相当である。

二  以上によれば、本訴請求は理由があるとして認容すべきであるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 畠山稔)

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